10万人の中で、誰も選べない…… ——会員数と成婚率の、不都合な真実

はじめに——春になると増える「乗り換え」の相談
「前の相談所では紹介が少なくて。だから会員数が多いところに移ってきました」
婚活の繁忙期である春、こういう相談が増える。気持ちはよくわかる。出会いが少ないなら、出会いが多そうな場所に行く。それは自然な発想だ。
でも、15年・1,200組以上の婚活をサポートしてきた立場から、正直に言わせてほしい。
その判断が、婚活を長引かせている可能性が高い。
なぜそう言えるのか。心理学・行動経済学・哲学・宗教、どの角度から見ても同じ答えが出る。さらに、私自身の現場でも「数が少ない方が成婚できた」という事実が起きている。
順を追って説明する。
1. 心理学の答え——「選択肢が多いほど、人は選べなくなる」
ジャムの実験が証明したこと
1995年、コロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授がスーパーマーケットで実験を行った。
- 24種類のジャムを並べた売り場
- 6種類のジャムを並べた売り場
試食に足を止めた人は24種類の方が多かった。しかし実際に購入した人の数は、6種類の方が10倍多かった。
2004年、心理学者バリー・シュワルツはこの現象を「選択のパラドックス(The Paradox of Choice)」と名づけた。選択肢が増えるほど、人は「どれが最善か」を考えすぎて何も決められなくなるという心理効果だ。
婚活での具体的な影響
I○○ネットワークの会員数は現在約10万人超。これだけの候補がいると、次のような状態に陥りやすい。
- 「もっといい人がいるかもしれない」と感じ、誰にも本気になれない
- 紹介を受けても申し込みを先延ばしにし続ける
- 交際に進んでも「他の選択肢」が頭から離れない
これは意志が弱いのではなく、脳の認知的負荷が限界を超えている状態だ。心理学では「決定回避(decision paralysis)」と呼ぶ。
選択肢が多いことは、可能性ではない。「決められなくなるリスク」だ。
2. 行動経済学の答え——お金を払ったあとの判断は狂いやすい
サンクコストが婚活を歪める
相談所を乗り換えると、また入会金がかかる。その瞬間から「せっかくお金を払ったのだから、ここで結果を出さないと」という心理が働く。
これを行動経済学では「サンクコスト(埋没費用)バイアス」という。ノーベル賞経済学者ダニエル・カーネマンの研究で広く知られるようになった概念で、すでに払ったコストが合理的な判断を妨げる現象だ。
10万人という数字が生む「期待の罠」
会員数が多い環境にいると、「99,999人のまだ会っていない誰か」が常に頭の片隅にいる状態になる。
- 紹介された相手に会う→「何か違う気がする」→お断り
- 実際には「もっといい人がいるはず」という期待が判断を歪めているだけ
- 相手に問題があったわけではない
シュワルツが言う「見越し後悔(anticipated regret)」の典型だ。まだ会っていない相手への期待が、今目の前にいる人への向き合いを阻害する。
10万人は可能性ではない。10万通りの後悔の予備軍だ。
3. 哲学の答え——「運命の人」はどこかに存在しない
サルトルの言葉
哲学者ジャン=ポール・サルトルはこう言った。
「実存は本質に先立つ」
人間にはあらかじめ決まった「正解の姿」などない。生きていく中で、関わりの中で、自分という存在の意味が後から生まれてくる、という考え方だ。
婚活における「正解探し」の罠
「どこかに完璧に合う人がいるはず」という前提で探し続けているうちは、誰とも深くなれない。なぜなら、出会う前から「その人はこういう人のはず」という理想像を持ち込んでしまうからだ。
本当の「この人でよかった」は、会ってみて、話してみて、関わり続ける中で後から育っていくものだ。
会員数を増やすことは、可能性を広げているようで、「どこかに正解がある」という幻想を強化しているだけかもしれない。
4. 宗教の答え——「縁」は数ではなく深さにある
仏教の「縁起」という考え方
仏教には「縁起(えんぎ)」という思想がある。すべての存在は、つながりの中でしか成立しない。そのつながりのことを「縁」と呼ぶ。
縁は、探すものではなく育てるものだ。
10万人の中から縁を探そうとすることは、仏教的に言えば縁の本質とズレている。縁の質は、向き合う時間と深さの中でしか生まれないからだ。
キリスト教の「隣人愛」
「隣人を愛せよ」というキリスト教の言葉は、遠くにいる理想の誰かへの期待ではなく、今目の前にいる人への向き合いを説く。
宗教はジャンルを問わず、同じことを言っている。
「探しに行くより、今ここで深く向き合え」と。
5. 現場報告——会員数1万人の連盟の方が、成婚できた話
※本章は現在調査中の仮説を含みます
ここからは理論ではなく、私自身の現場で起きた話だ。
ミューコネクトで最も成婚率が高かった時期
ミューコネクトがこれまで加盟してきた連盟の中で、最も成婚率が高かったのは、会員数が約1万人規模の連盟に加盟していた時期だった。
現在は会員の希望に応じてIBJ(約10万人超)に加盟している。会員数は単純計算で10倍になった。しかし成婚率は、会員数1万人の時代を超えていない。
それどころか、会員数が少なかった時代の方が、お見合いのマッチングが格段に組みやすく、「普通では考えられないような成婚」が次々と生まれていた。
立てている仮説
なぜこんなことが起きるのか。現時点での仮説はこうだ。
会員数が増えたことで、選択のパラドックスが作動している可能性がある。
- 候補が多すぎて、誰に申し込むか決められない
- 申し込んでも「もっといい人がいるかも」と本気になれない
- 結果として、マッチングが組みにくくなる
これは個人の問題ではなく、データ過多が引き起こす認知の限界ではないかと考えている。
ただし、これは現在も調査・検証中の仮説だ。断言できる段階ではない。
それでも、15年・1,200組超の現場経験から言えることがある。
「数が多ければ成婚に近づく」は、少なくともミューコネクトの現場では成立していない。
まとめ——数で負けた戦場を、数で取り返そうとしなくていい
この記事で見てきたことを整理する。
心理学(選択のパラドックス):選択肢が増えると、人は選べなくなる。ジャム24種類より6種類の方が10倍売れる。
行動経済学(サンクコスト・見越し後悔):乗り換えコストが判断を歪め、10万人の候補は後悔の予備軍を増やすだけだ。
哲学(サルトル):「運命の人」はどこかにいるのではなく、向き合う中で生まれてくる。
仏教・キリスト教:縁は探すものではなく育てるものだ。
ミューコネクトの現場:会員数1万人の時代の方が、成婚できた。
相談所を乗り換える前に、一度だけ立ち止まって考えてほしい。
あなたが本当に求めているのは「選択肢の多さ」か、それとも「ちゃんと向き合ってもらえる環境」か。
問うべきは、会員数ではない。あなたの言葉が、相手に届いているかだ。
選ばれるのは、数が多い相談所にいる人ではない。自分の言葉で、自分を語れる人だ。
よくある質問(FAQ)
Q. 結婚相談所は会員数が多い方が成婚しやすいですか?
A. 必ずしもそうではありません。心理学の「選択のパラドックス」によれば、選択肢が多すぎると人は決断できなくなります。実際にミューコネクトでは、会員数約1万人の連盟に加盟していた時期の方が、現在の約10万人超の連盟より成婚率が高かった時期があります(現在調査中)。
Q. 結婚相談所を乗り換えると婚活が長引くのはなぜですか?
A. 行動経済学の「サンクコストバイアス」と「見越し後悔」が主な原因として考えられます。乗り換えのたびに「元を取らなければ」という心理と「もっといい人がいるかも」という期待が重なり、目の前の相手に本気になれない状態が続くためです。
Q. 婚活で「選択のパラドックス」とは何ですか?
A. 心理学者バリー・シュワルツが提唱した概念で、選択肢が増えるほど人は決断できなくなり、満足度も下がるという現象です。ジャムの実験では24種類より6種類の方が購入率が10倍高く、婚活においても候補が多すぎると誰にも本気になれない状態を引き起こす可能性があります。
Q. ミューコネクトではどのような婚活支援をしていますか?
A. 写真・年収・学歴ではなく「言葉と物語で相手を選ぶ」ナラティブ婚活を主軸としています。15年・1,200組超の成婚実績をもとに、一人ひとりの言葉を磨くことで「選ばれる人」を育てるアプローチをとっています。
※第5章「現場報告」は現在調査中の仮説を含みます。今後、検証結果をもとに加筆・修正する予定です。
この記事を書いた人
横井むつとも(婚活参謀★むつとも) ミューコネクト株式会社 代表取締役。婚活業界歴15年、成婚サポート実績1,200組超。著書3冊(秀和システム・すばる舎・デザインエッグ社)。ダイヤモンド・現代ビジネス・プレジデント・anan・ダ・ヴィンチ等メディア掲載多数。IBJ AWARD ROOKIE受賞。岐阜県大垣市を拠点に全国オンライン対応。「語れない人は、選ばれない。」をテーマに、言葉で人生を動かす婚活を提唱している。
